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マッチ売りのプロジェクトリーダー

 年の瀬も押し迫った大晦日の夜、プロジェクトリーダーが一人、暖房の切れた寒いビルの中でシステム開発を行っていた。マイルストーンが達成されなければ上司に叱られるので、すべてのタスクが終わるまでは家には帰れない。しかし、プロジェクトメンバーは年の瀬の慌ただしさと無理なプロジェクト進行に嫌気がさしていることから、プロジェクトリーダーの業務には目もくれずに通り過ぎていった。

 夜も更け、プロジェクトリーダーは少しでも自分を暖めようと仕様書の束に火を付けた。炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影、仕事を口実に顧みなかった家族、共に過ごすはずだった行事、思い出、結果として離婚してしまった妻やこどもたちの笑顔が一つ一つと幻となって現れ、炎が消えると同時に悔恨が消えた。

 流れ星が窓を過ぎていった。プロジェクトリーダーは、彼を信頼してくれた顧客が「流れ星はプロジェクトが炎上しようとしている象徴なのだ」と言った事を思いだした。次の仕様書に火をつけると、その顧客の幻影が現れた。仕様書の火が消えると、顧客も消えてしまうことを恐れたプロジェクトリーダーは慌てて持っていた仕様書全てに火を付けた。顧客の姿は明るい光に包まれ、プロジェクトリーダーを優しく抱きしめながら天国へと昇っていった。

 新しい年の朝、プロジェクトリーダーは仕様書の燃えかすを抱えて幸せそうに微笑みながら死んでいた。システムは完成していなかった。しかし、人々はプロジェクトリーダーが仕様書の炎で顧客に会い、検収書に社印をもらったことなどは誰一人も知る事はなかったのである。